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1章 15

Penulis: 深田あり
last update Tanggal publikasi: 2026-05-06 20:12:28

「はい」

 小さく頷くアコ。

「アコのために、俺は……君を直したい」

「はい!」

 大きく頷くアコ。

 そして俺は、はっきりと言った。

「アコのために、俺は、オーディオをやるよ」

「はいっ! ありがとうございます!」

 アコがもう一度抱きついてきた。

 ぬくもりが心地よい。肌の感触が妙に暖かい。

「お、八島。覚悟は決まったの?」

 と、紐育が妙にほくほくした顔で声をかけてきた。

 どうやらたっぷり堪能したらしい。

「ああ、紐育は?」

「んー、気になるのはあったけど、ちょーっと値段がね。高いよね」

「だよな。まさかイヤホンがこんなに高いものだとは思わなかったよ」

 世の中わからないことばかりである。

 と、アコが嬉しそうに挙手する。

「私、八万五千円ですから!」

 自慢。俺ははは、と口元を引きつらせながら小さく突っ込む。

「でもそれこの店では多分ミドル級だよな? 五十万とか四十万とかあるし」

「でもそれらに私、負ける気はしません。これでも私、フラグシップですもん!」

「はは、それもそうだ。じゃ、今日は帰ろうか」

「え?」

 意外そうに首をひねるアコ。

 どうやら今日この場で全てを終わらせるつもりだったらしい。

 とはいえ、アコを聴くのだから別にイヤホンを買う必要はないんだぞ?

 まあそんな野暮なことを言うと彼女も傷つくだろうから、ここは当たり障りのないように、

「音源、ダウンロードしないとな」

 と言って、ぐっと親指を立てた。

 アコはぎゅっと拳を握り、破顔一笑。

「はいっ! ハイレゾたっぷり買ってください! 一曲六百六十円です!」

「高っ! え!? 何!? 何でそんなに高いの!?」

 超予想外! なんだそりゃ!?

「オーディオはお金がかかるんですよー でもポタオデは安い部類ですよ? 据え置きとか天井知らずですから」

「……ちなみに据え置きのハイエンドってどれくらい?」

 俺は恐る恐る訪ねた。

 アコは人差し指を口元にそえながら、思案するように天井に視線を向ける。

「えーと、世界一高いスピーカーが二億円でしたかね? セパレートアンプが五千万くらいで、DACと合せて、さらに二千万円のパワーアンプをスピーカーのドライバーの数だけ揃えて、ケーブル類が各種一千八百万円くらい。あと二百万円のインシュレーターに、電源タップ、さらにケーブルを浮かせるアクセサリーや、制振シール。音質がよくなる椅子や音質がよくなる謎の置物。あ、極めつけはマイ電柱ですね! 二百五十万円で電柱は買えます!」

「「…………」」

 なんて言えばいいのかわからない。

 ただ、敢えて言葉があるとしたら。

「アコ」

「はい」

 俺はアコの手をぐっと両手で掴み、

「君がイヤホンで本当によかった」

 心からの感想を述べるのだった。

 アコはひくひくと頬をひきつらせる。

「……少し、思うところはありますけどね、このタイミングでそれ言われるの」

 まあ紆余曲折はあったけど、これから俺のオーディオライフが始まると言うことだろう。

 嬉しくもあり、不安でもあり。ただ、楽しみではあった。

 心臓が、とくんと高鳴るくらいには。

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